諸行無常

既に鬼籍の母の話
 
私が中学生時代
母はよく取引先の男性と仕事の打合せをしていた
正月でさえその男性から仕事の話で電話が掛かって来る位だから
余程際どい時間単位の取引だったんだと思う(不動産取引)
 
我が家の電話を正月早々『封鎖』してしまう位熱心なやり取りだから
母からも相手方の家に時間構わず電話を掛けていた
 
今みたいに携帯電話が普及している時代とは違う
相手方の家に夜中に電話する位の時は
それは全く当人と連絡が取れない場合の最終手段だ
 
どこへ行ったんでしょうか・・
 
相手方の若奥様の舌足らずの困った様子が妙に気になったと母は後日語った
 
何度か同様な事があり
ある晩気になって母は若奥様に尋ねてみた
 
失礼ですけどお名前は?
 
返って来た答えに息を飲む・・
 
ご出身は?年齢は?
 
驚いた母は若奥様に捲くし立てる
 
週末に我が家へ来なさい! ご主人と一緒にね
 
・・・
 
私には父親の違う『姉』が存在した
 
終戦直後に生まれた『姉』は
母が新聞記者として忙殺されていた為実家に預けられていた
戦後の混乱期に食べ物や玩具を何度も送ったという
然し何とか時間を作って実家へ帰ってみると娘の姿が無い
遠縁の子供の無い家に連れて行かれてしまった・・との事だった
何とか所在を調べて訪ね当てると
庭で遊ぶその子は可愛い服を着せて貰ってとても幸せそうだった・・
 
とても声は掛けられなかったわ
だってイキナリ現われて
『私が母親よ』ったって到底無理な話よね 
だからお前にはどこかの星の下に干支の同じ姉さんがいるんだよ・・
 
その週末の母は興奮しきっていた
 
神様は本当に存在するんだね・・
 
姉は成人すると
家の使用人と恋仲になり
到底理解されないと判断した二人は
手に手を取って駆け落ちしたのだった
『使用人』は一念発起して地上げ屋となり
偶然母と取り引きや情報のやり取りをする様になった・・
 
何で娘と分かったの?  (私
 
私と同じ舌足らずな話し方かなぁ・・ でも絶対それだけじゃないなぁ   (母
 
どうしたら偶然生き別れの娘と出会えるのか?
どうしたら乳児だった娘が26才の時点で自分の娘と判りえようか?
 
無神論者は確率論に関わらず『偶然』と言い
信心深い人は限れも無く神から授かった『奇跡』と言うのだろう
 
 
何かが・・介在するんだろうね この世は