階段を上がってくる霊

不動産屋時代のちょっと怖い話



爽やかな初夏の兆しが色濃くなって来た頃
窓越しに青空を眺めていた私の元に彼女はやって来た・・


大学を出て2年
男子校の英語の先生をしているそうで
理知的な顔立ちはとても爽やかな美形

まるで季節を反映しているような面持ちに
私もつい見とれそうになった位
ちょっと焦燥した感じは仕事の疲れだろうか?


お引越しの理由は?

・・・

いきなり沈黙である
然し私に限らず男性諸氏は美人に弱い
にこやかに笑って話を進める・・

ご希望の間取りは?・・・


その日のうちに『分譲賃貸物件』の一室を押さえる

たった25屬覆里4000万円台という豪華マンションだ
気に入らない訳は無い

仮申込書を書いた彼女は足取り軽く帰っていった・・



その晩から私は高熱発生
40度以上にもなった熱のせいで殆ど記憶が無い
病院に行くなんて思いも付かない位のダメージの強さ

然し部屋に誰か居るのだよ・・

盛んに私を恨みながら苛んでいる・・

やっと甦生して会社に行けたのは一週間後
体重は4キロ減という凄まじさ


そこへ件の美人先生から電話

先日の『引越しの理由』の件ですが・・
お仕事のお役目柄、必要な事ですよね?

当時は『某宗教』のアジト問題が世を騒がしていた頃だ
警察も定期的に『顧客受付表』のチェックで訪れていた・・

もう良いんですよ・・(相変わらず美人に弱い)

所が彼女は是非話したいと言い出す・・


実は・・


既存の物件に住んでいたのは約2年

引っ越して半年後のある晩
部屋の鍵を開けると若い男が立っている・・

悲鳴を上げそうになって電気を点けると煙のように消えた

疲れているんだろうか?

自問自答しながら何時ものようにメゾネットの上で就寝

深夜にふと目が覚めると
さっきの『若い男』がじっと枕元で覗き込んでいる・・


声にならない悲鳴!


それから恐怖の毎日が始まった・・


毎晩決まって午前4時に『彼』はメゾネットの階段を登ってくる・・

じっと覗き込み黎明と共に消えていく・・

階段の軋る音が決まった時間を告げる・・

そうして彼女は1年半もの『彼』の訪問を受け続けたのだ

最近体調が優れないので有名な『霊能者』に診て貰ったのですが
『彼』が本気で自分の元に連れて行こうとしていると言われまして・・
所が御祓いをしても消えてくれないんです・・

満更悪い『彼』では無かったそうだ
腹痛で苦しんだ時にはお腹をさすってくれた事もあるそうな・・

彼女は重ねて驚く事を言った!

実はそちらに伺って部屋が決まってから全く『彼』は居なくなりました!

(もしかして『別離』の恨みを込めて俺を苛みに来たって事じゃん!)

物件のオーナーにも相談した事があったが
建物を建てるの前の『土地』について『思い当たり』がある様な素振り・・
言葉を濁されてそのまま・・

頭がオカシイ?と思われたくなくて初対面の私にも言えなかったそうだ・・



その後


快活になった彼女は『恩人』の私に頻繁に電話をくれた

食事の約束もして日時の催促もあったのだが
結局『彼女』との再開はありえなかった・・


もう逢わない方が良い・・


本能なのか守護霊のお告げなのかはたまた『彼』の希望なのか・・

何か?が私を押し留めたように思う



彼女は今どうしているのかな?

多幸をひたすら願うのみ・・