枕元に立つ血まみれの『甲冑武者』

『彼』は当時私の大事なお客様



縁あって私の住んでいたマンションの一室を紹介

警備会社の重鎮で朝7時に出勤なのに
毎日3時過ぎには起床するという
超『重要文化財』的真面目人間

殆ど朝帰りの毎日だった私と全く逆人間と言えた
(もう電気が点いてら!偉いなぁ・・てな毎日)



寡黙で必要な事以外は話したがらない『重要文化財』が
ある日相談があると言う

聞けばトラウマがあり
自分の今の仕事に差支えがあるのではないかと悩んでいると言う

普段冗談を言っても笑わない人からの相談事だ

私は勿論快諾


ポツポツと話し出した話は驚くべき内容だった・・




『彼』は以前埼玉県K市のボロアパートに居住していたそうだ

まだまだ会社では下っ端だ
収入もそんなに無い頃で風呂なしアパート暮らしを余儀なくされていた



ある晩


部屋の入り口に背を向けて眠っていた深夜の事

部屋のドアをノックする音

気のせいか?と思ったらまたコンコン・・

こんな時間に誰だろう?

深夜に尋ねて来るような非常識な知り合いはいない筈だが・・

仕方が無いのでドアを開けてみると

そこには無人の静かな廊下だけ・・・

誰か部屋を間違えたのか?

他の部屋の学生のいたずらだろうか・・

誰もいなければ話にならないので

『彼』は入念にドアの鍵を確認して布団に戻った

そして再び眠りに落ちる・・・


!!!!

突然部屋の空気が動く

ドアが開閉された空気の動き

耳元でいきなり声がする

『殺すぞ・・・』

いきなり覚醒する

ドアには鍵が掛かっていた筈だ!



振り返るとそこには・・・

鎧兜に身を固めた血まみれの甲冑武者が立っていた

鬼のような形相を面頬が際立たせている

身を切るような殺意が体を襲う

思わず身構えると・・・




『私には異常な人格が潜んでいるんでしょうか?』

企業間の大事なシークレット業務に携わっている彼は
業務中に自分が『異常行動』を起こすのではないかと
日夜苛まれ続けていたのだそうだ・・・



それは・・・

『それは幽霊でしょうね・・・』

聞きかじった客の霊的体験談を話す・・

私は当時不動産屋である

幽霊話で業務に支障をきたした事さえもあったので
遭遇経験は無くとも存在を信じる気持ちはあった


『本当に幽霊でいいんですね』


重要文化財』は安堵のため息を漏らす・・



得てして真面目人間ほどトラウマは深いようだ・・

然しK市は現在一大都市だ

住宅密集地に『落ち武者』の霊?

件の『甲冑武者』は彼の先祖の因縁なのだろうか?


・・・・


私は余計な事は言わない事にして
出掛かった言葉を飲み込んだ・・・