十字架

彼女は美人だった

お付き合いしている人がいた訳じゃ無かったから
当時一番彼女の相談に乗っていたのは私だったと思う
取り留めの無い話は相談というより殆どが世間話だったけれど
彼女は長話の間中楽しそうだったし
殆ど聞き役の私も電話の来そうな時間帯になると
やけにソワソワしたりしたものだ

奇妙な事に気が付いたのは
そんな「関係」が暫く続いた頃だった

今日こんな事があったの・・

楽しく些細な筈の話が
「ながら」で聞き流していた私が驚いて聞き直してしまう様な内容だったり
理解に苦しむ様な話も度々あったものだから・・

「何か」を抱え込んで無いかな・・?

私ね・・人を殺したかもしれないの・・


彼女は有名な避暑地で生まれ育った
高校は都会的なセンスに溢れ生徒たちは皆垢抜けていて
公立校にも関わらず周辺の学校とは一線を画していた・・

或る日
1人の男子高生がバイクで横転し救急搬送された
重傷ではあったが幸い生命の危険は無く
本人も意識ははっきりあった

早速クラス内で輸血用の血液提供が求められる
必要な血液型はA型
「彼女」と同じO型の同級生は
こんな時はO型は損だよなぁ・・
皆の笑いを誘いそして彼等は揃って病院へと急いだ

緊急手術を終えた男子高生は
翌日にはベッドで半身を起こせる様になり
見舞いに来た皆に感謝を述べた

所が
その晩に彼の容体が急変してしまう
夜半過ぎにいきなりショック状態に陥り
朝を迎える事無くあっけなく急逝してしまった・・

悲しみに包まれる教室・・

やがて迎えた卒業式には
「彼」の屈託無く笑った写真も同席し父兄たちの新たな涙を誘った・・


何年かが経ち
既に社会人となった彼女に最初の健康診断の結果が渡された
心配なのはちょっと低血圧で貧血気味な事・・

彼女はいきなり凍り付く・・

血液型=B

バイク事故を起こした男子高生の血液型はA型だった
自分ではO型のつもりだったから輸血に賛同したのに・・

ショック死したのは私のせいなの?

彼女は自分を救うべく病院を廻る・・
然し無情にも結果は同じ・・B型

そして彼女は自ら十字架を背負った・・

人間関係がうまくいかなくなり
不眠症に苛まれる日々・・

そう・・だから私が殺したのよ・・

私は全否定して彼女の救済の為に必死で手を差し伸べる・・

必ず輸血前に検査しているから大丈夫だってば

田舎の小さな病院だから検査なんかしてないよ・・

血液型の間違いだなんてそんな基本的なミス絶対無いから!

ショック死したなんてもうそれしか考えられない・・

・・・

結局の所
「輸血の血液間違い」とは言い切れない・・
という所まで納得させるので精一杯


やがて私には彼女が出来て
遠慮したのか美人さんは電話を寄越さなくなった・・

・・・

齢を取ると思い出話が多くなる・・

彼女は未だに十字架を背負ったままなのだろうか・・