スーパーサイヤ爺

最初に
誰が面白がって「Iさん」をフィリピンパブなんぞに連れて行ったのか
長い間知る人はいなかった
尤も頻繁に話題に上る様な興味を引く話では無かったし
本人も一々誰かに報告する訳でもない
至極普通に始まった「ピンパブ狂い」は
やがて自然に皆の知る所となった

70才でバツイチ独身
重ねてお気楽な性格が尚も一層のハマり条件を満たしたのか
「Iさん」の人生は今までと丸で変わってしまった
睡眠時間を削って店に通い詰める
お目当ての女性が「おめでた」に気づいた時
papaとなった「Iさん」は丸で上原謙と同じで71才だった

家庭を持つ事を決意した「Iさん」
毎朝3時過ぎには出社
勝手にフォークリフトを操って自分に都合の良い荷物(高在宅率)をpickup
配達完了が午前中だけで120個
夜10時過ぎの帰宅時までに普通の人の2倍強の配完率を誇った
当然、時間帯指定は全く眼中無いし
客先の都合を完全に無視した配達行為には苦情が殺到
年間で100件を超える苦情にはカスタマーも苦慮したが
何故だか「配置換え」になる程の重度の申し立ては無かった
既に強引に「高額所得者」となった「Iさん」は
手始めにマニラに奥さんの実家を新築する
ブルドーザーを購入して庭を整備
周囲を圧する豪邸のはずなのに

おかしいんだよねぇ・・
台風が来る度に「屋根壊れた」って送金せびるんだよね

私が全く危険を感じなかったかと言ったら嘘になるだろう
けれど彼の娘は既に4才にもなっている
幸せな家庭にちょっとした波風?
そんな程度に感じていた・・

休みの前の日はさ・・
バイアグラ通常の3倍飲むんだゾ~

え”~ッ!
今75才でしょ!そんなに飲んで大丈夫なのぉ? 

マカなんか毎日飲み続けて何年経つかなぁ

体に気を付けなきゃダメだよ~

俺は不死身だからなぁ

所が
彼が「不死身」では無い事は
周囲の人間だけではなく神様も十分知っていた

ある朝の荷物の積み込み中に「Iさん」は突然大量吐血
救急で病院に担ぎ込まれたが幸いに一命は取り留めた
それでも一ヶ月位の入院を余儀なくされて
仕事を続けるには困難な体になってしまった

それは退院時の清算の時に起きた

入院時に全く顔を出さなかった奥さんから現金を貰っていなかった為
費用清算をカードで支払おうとした所
限度額オーバーで支払い不能
慌てて他のカード類を調べたが他も同様の有様

何とか家に帰ってみたが
家はもぬけの殻
奥さんは「Iさん」が倒れた直後に
娘を連れてフィリピンへ帰ってしまったのだそうだ
残されていたのは離婚届用紙

いきなり病身の体となった挙句に
妻子に去られて一文無し・・

市役所に赴いて事情を話し生活保護を申請したが
何せ前月まで100万円近い月収があったせいで
簡単に申請が通る筈も無い
公共料金は不払いで水道、電気等が止められる
家賃も滞納しているが支払える可能性も無い・・

私は黙っていられなくなり
昔別れた奥さんとの息子に状況を打ち明けた
身勝手な父親を恨みがちな口調ではあったが
何等の手立てを保証して貰い軽く安堵した・・



その後
暫く「Iさん」の消息は聞こえてこなかったが
(まぁ あまり聞きたくないしね)
昨年の秋にポックリ亡くなったそうだ

親父らしい最後でした・・

・・・
親父らしい・・が
私の知っているシブトイ爺でなかった事は確かだろう

今際の言葉は

遺灰はマニラに捲いて欲しい・・

臨終の床でさえ
丸で懲りないスーパーサイヤ爺の遺言を守るべく
冒頭「Iさん」をフィリピンパブへ連れて行った「Y氏」が
責任を背負ってマニラへ飛んだ

「Yさん」だったのかぁ・・

イイ齢してあの人も好きそうだしねぇ

金の切れ目が縁の切れ目ね

この場合は縁じゃなくて命だね
コワいコワい

まぁ凄まじく煌めく愛の人生ってとこかね
俺達には無理だな・・



合掌_