怖い話

ちょっとした仕事中の気分転換には短編集が良い
こんな本を読んでいるとふと思い出す事もある
本当に怖い話に遭遇すると深夜のオフィスでも助長されて後悔する破目になる・・
 
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30年も前の話
 
当時通っていたオフィスは東京の中心地
地価は高いくせに駅から離れていて昼食の便利も悪い
 
夏の昼休みはわざわざ酷暑を出歩く事も無く
涼しいオフィスで椅子を持ち合って取り留めない世間話
 
その夏は『怪談』が流行っていた
どれもどこかで聞いたような都市伝説であったり
雑誌の片隅に載っているような話ばかりだったから大して怖いわけでは無い
 
男女がお近付になる切っ掛けが見え見えだもの
私は口を挟まず聞くだけの傍観者を装う・・
 
その日も尾ひれの付いた大袈裟な話に盛り上がっていた
 
ふと見ると所在無さげな女の子が1人
仕方無しに話の輪に加わってはいるが
ちっとも楽しそうではない
 
昼休みの終了を告げるチャイムが鳴って其々が椅子を戻す際に
私はイタズラ心で囁いた
 
怖いの?
 
キッと私を見やる彼女の目には涙が浮かんでいる・・
 
(怖かったんだな・・)
 
イタズラ心をちょっと悔やんだその日の帰りの事
 
オフィスを出て駅までの道を歩みだした私を
件の彼女が追いかけてくる
 
私ケイケンシャなんです!
 
経験者なんて言葉を不用意に口に出して良い時代ではない
然も社内では注目の可愛い女の子だ
一緒に歩いていただけでも何を噂されるかわからない
 
一年前に本物と遭遇したんです・・
それも毎晩でした
 
ポツリポツリと話し始めた内容に思わず心が震撼する
 
あれは前のアパートの事でした・・
 
一階の彼女の部屋には小さな庭があった
既に暗くなっていた帰宅時に仄明るい庭を見やると・・
 
人と思しき影が立っている・・
 
部屋の電気を点けてもう一度覗くと
もう気配は無い・・
 
気のせいかな?
 
そしてその晩から恐怖は始まった
 
生まれて初めての金縛り
暗い部屋に何者かの気配がある
 
やっと時計を見ると深夜3時を回ったところか
 
疲れてるのかな?
 
所が翌晩も金縛り
今度は明らかに部屋の隅に人影がある
 
やっと時計を見ると昨晩と同じ時間
 
私どうかしちゃったのかな?
 
まだ信じられない彼女は3日目の晩を迎える・・
金縛りに慣れた訳でも無いのだろうが
人影が髪の長い女性である事に気付く
然も前夜よりベッドに近い所に立っている・・
無表情の横顔
そして時計はいつもの時間・・
 
完全に常軌を逸した彼女は自分の体調の所為と決め付け
4日目の晩を迎える
 
眠る事ができない・・
然しまた襲ってくる金縛り
女性は部屋の中央に立ち顔をこちらに向けている
目は虚ろに遥か先をじっと見つめている・・
金縛りが解けても時計を見ることも出来ない恐怖感
 
5日目
 
ベッドの縁に立つ痩せた無表情の女性
 
明らかに私に用があるんだわ!
 
否定の気持ちをついに拭いきれなくなる
強い疲労感と共に夜明けを迎える・・
 
6日目
 
金縛りに苦しみながら
女性が息が掛かるような近さで覗き込んでいるのがはっきり解る
目は彼女より先を見ていて後ろの柱が透けて見えている・・
 
この世の人ではないんだ・・
 
初めて幽霊と認識せざるを得なくなる
 
7日目
 
ついに覗き込んだ女性の目が彼女の目に焦点が合う
 
手が彼女の首に掛かっている・・
 
ニッコリ笑い掛けながら力が入ってくる
 
息が出来ない・・
 
私が何をしたというの?
 
意識が遠ざかる
 
ふと気が付くといつもの時間
自分の首に跡を付けていたのはなんと自身の両手だった・・
 
生きていた・・
 
・・・・
 
ねぇそれでどうしたの?  (by私
 
明るくなるまでラジオを大音響で掛けた・・
動けなかった・・
 
近所から苦情来なかった?  (陳腐な質問
 
だれか人の声が欲しかった・・
例え苦情で怒鳴り込まれても良かった・・
でも不思議に明るくなるまで誰も・・
 
その後は?
 
それっきり
 
えー!そこにまだ住んだの?
 
半年ほど
 
俺だったら逃げ出すぜー!
 
引っ越すお金が無かったんだもん・・
 
・・・・
 
翌日の昼休みから私は所在無い立場となった
 
(彼女のイタズラで作り話だった?)
(私の気を引こうとした?)
 
それっきり2度と私に話しかけてこない彼女の
相変わらず居場所の無さそうな所作が疑問を否定した・・
 
 
ねぇ怖いの?
 
何も知らない悪同僚が私に声を掛ける・・
 
キッと見やる私の目には多分涙が浮かんでいる・・