有閑昼夢

お昼の定番がタモリじゃなかった頃の話

ある初夏の午後

私は誰もいない静かな近所の公園のベンチで
じっと太陽を見上げていた
強い陽光は閉じた瞼を通り抜けて
脳の中までも干した布団の様にホクホクにしてくれている

ふと見やると
いつの間にか様々な色の綿ジャージを着た大の大人が5人
まだ順応しきれない目を凝らすと
真剣な面持ちでじゃんけんをしている・・
始まったのは何と『かくれんぼ』だった

こんな狭い公園で何をいきなり・・

訝しく思いながら鬼の顔を見る
どっかでつい最近見た顔だ(それも今しがた)
特徴のあるM字を崩した様な口元・・名前が出てこない
一人がいきなり私の座ったベンチの後ろへ回り込み
私を楯に土下座の格好で伏せた

狭い公園だもの数を数え終わった鬼は
順番に読み上げるように一人一人見つけていく・・

『たかだー』

折角の土下座もすぐ見つかってしまう
照れながら埃を払っているのは何と『高田純次
見つけた鬼は・・そうだ『ベンガル
柄本明』も無表情で灌木の陰から出てくる・・

そう彼等は『東京乾電池

あっという間に皆見つかってしまうのに
大真面目に何度も『かくれんぼ』は続く

でも何故か鬼は大体・・『ベンガル

このアングラ寸劇の観客は私だけ
気が付く人はおろか通りがかる人さえもいない

ほんの1時間程前の昼番組のTVで見た顔ぶれが
目の前で真剣に汗を滴らせている不思議な光景

・・・

白昼夢はやがて終わりを告げ
息を切らしながら彼等は公園を後にする

まるで最初から私の存在も気が付かなかった様な4人

4人?

おーーい

頭の遥かに上から大きな声
木から降りれなくなってしまったのは『高田純次

存在を忘れられた『折角の名案』を笑い合いながら
今度こそ5人は去って行った・・



中野区東中野1丁目にあるその公園は
遊具配置は変わってもレイアウトは当時のまま
東京乾電池』の稽古場が近くにあったと知ったのは
つい最近の事だった


高田純次が降りれなくなった木は
何の木だったろうか・・