厩舎の都合

もう30年近く前の事だ


当時『y子』は都心にある会員制の高級クラブに勤めて2年以上が経っていた

元銀行員の彼女は請求書払いの客の管理に長けていた為
mamaの信頼を一身に受け『ちいmama』の存在だ

一応ステータスのある地域では土日は休みである
地下鉄丸の内線は夕方になると新宿、赤坂、銀座と降りる駅で
『夜の蝶』(agehaとは違う)のレベルがはっきり分かれていた

ある晩秋の日『y子』はmamaに呼ばれた

『今度の土曜日に大事なお客様のパーティがあるの』

手当てを弾むと言う
それならと『y子』は定休の土曜日に店の灯りを点けた

店には遅れてきたmamaと2人…

そこへ見た事の無い『小柄な紳士』達が集まって来る
人数は5人だったと記憶している

訝しく思いながらも『y子』は酒と料理を用意した
しかし誰もがあまり手を出さない様子…


『大丈夫よこの子は信頼できる』


mamaの一言でいきなり『驚くべき』打ち合わせが始まった

主に内容は『厩舎の都合』である

『a厩舎』の息子は今年金の掛かる大学に入った…
『b厩舎』は勝ち星が少なくてこのままではちょっと拙い…等

mamaも目の色を変えて『同席』である(翌日の馬券の都合)
要するにいつもだとmama1人が料理の提供等で『同席』できない
それで今回は『y子』がお手伝いという寸法だ


こんな集まりがその年の年末近くまで続いた…
(当然翌年以降も同時期に)


ある日既に馴染みになってしまった『某有名騎手』にy子は尋ねた

『大丈夫なんですか?』

『鞭の一つ、手綱の捌き加減なんて素人なんかにわかりゃしないさ』


『y子』が言ったお忍びの『有名騎手』達の名は競馬をやらない私でも知っている
(mamaが某有名騎手の彼女だった)

『打ち合わせ』の翌日の重賞レースの結果は興味が無かったので見ていない
(mamaが儲けた話はついに聞く事は無かった)

其々の業界に『都合』がある
日本の国技にさえ不明瞭な噂があったりするが
要するに『持ちつ持たれつ』なのだ

競馬好きなあなた 
年末重賞レースは『厩舎の都合』で馬券を買うのも一興かもね


因みに『y子』は当時一児の若い母
『当時』の夫である私に対し『口止め』は無理だったのである



だから私は『競馬』を絶対にやらない