セイレーンの歌声

「彼女」が入社した時は社員の誰しもが目を見張った
 
まぁ一言で言うと
大島優子」ばりの美人だったから
 
まだ女性ドライバーなんてカテゴが
定着していない頃だったから
多分「何かの間違い」で入社した彼女が
こんなに長期に及んで継続勤務するなんて誰も想像だにしなかった
 
やがて
彼女の「本分」が正体を現してくる・・
 
それは男性の職場に身を置く美人の有利さを
十分熟知しているとしか思えない所作
 
自身の業務に有利に働くように
上手に役職達に色気を振りまくのである
 
着席中の課長の耳元に囁きかけたりする
他の女性ドライバーには到底真似はできない
然し彼女の笑顔に誰も文句を言える者はいない・・
 
やがて
net上で「美人ドライバー」として顔写真がリークされ
配達先のお客様からも
毎日プレゼントを頂くようになる
それはまるで毎日がバースデーのようにさえ賑う始末
 
然も彼女の顔を毎日拝みたいが為に
net通販で連日買い物をする輩まで・・
 
 
私自身はと言えば
彼女の一部の日常業務を有利にできる立場にある
然し私は「特別扱い」は決してしなかった
いや・・
かえって他の女性ドライバー達より厳しく対処していたかも・・
 
あの日までは・・
 
 
 
相談があるんですけど・・
 
おずおずと私の前に現れた彼女の手には手紙らしきもの
聞けば会社宛に度々届くのだと言う
促されるままに中に目を走らせると・・
 
眩いばかりの「愛の言葉」の羅列
 
いつからなの?
 
暫く前からです・・
 
私にどうしろと?
 
・・・
 
それでは
ストーカーに発展するような素振りがあったら
直ぐに警察へ相談しなさいね
こちらへの配達は極力他の人に代わって貰うように・・
 
無難な返事でかわしたつもりだったのだが・・
 
彼女は急に身を翻して私の耳元に囁いた
 
これは私達二人だけの秘密よ・・
 
・・・
 
彼女は
それこそ無料で高価な笑顔を満面に浮かべて部屋を出て行った・・
 
その後
度々親しげに私に手を振る彼女
 
私たちの顔を不思議そうに見比べるドライバー達・・
 
(けっ!これじゃスケベ課長達と同じゃないか!)
 
あの~ これをお願いしたいんですけど・・
 
これはね 自分で・・
 
・・・(にっこりする彼女)
 
断る文句を封殺されてしまった・・
これほど
「二人だけの秘密」とやらが効力を持っているなんて思いもしなかった
 
これからも彼女は私に
意味深な「特別仕様」の笑顔でドライバー達の疑心を掻き立ててつつ
私を翻弄し続けるのだろうか?
 
 
 
 
私は・・
 
「セイレーンの歌声」を聞いてしまったのかもしれない・・